ヘレディタリー/継承を見た話。
去年一番ヤバな気持ちになった映画の話をしたい。「ヘレディタリー/継承」である。
正直めちゃめちゃ大好きだし、伏線がたっぷり入ってて二周目はさぞ楽しかろうが、二度と見たくない気持ちがすごい。とにかくヤバイのである。
どういう話かだけ言っとくと、祖母が死んでヤバげなことが起こり始める…!みたいな話であるが見たほうが早いので見てください。
そもそも公開前からかなり盛り上がっており、公開直後から「怖かった」だの「ヤバかった」だの「トラウマ」だのの感想ツイートを見ていたらどうしようもなくなった。アリアスター監督の過去作品”The Strange Thing About the Jonson’s”も見(感想が割と映画の核心に関わってくる(気がする)のであとで書きます)、これは見るしかないと奮起したゴリラ、公式サイトから公開劇場を探してみる。京都に一軒しかない。
なんで????????
しかも朝とレイトショーしかない。
なんで???????
こんなに面白そうなのになんでこんなに公開範囲が狭いんだ!悲しみながらもゴリラは11月、TOHO二条に足を運んだわけである。
ここから先のネタバレが酷い。出来ればノー知識で見てほしい。そして絶望してほしい。1月から公開している劇場もあるらしい。是非映画館の音響で見てほしい。よろしくお願いします。
ありえん。
ありえんぐらい嫌である。
ホラー映画の「怖い」要素として「逃げられない」ことが割と役割を果たしてくると思う。「グリーンインフェルノ」だったら文明から隔絶された山奥、大学生達は食人族の檻から逃げられないし、「悪魔のいけにえ」は田舎のガソスタのおっさんもヤバいヒッチハイカーもグルだ。物理的に閉鎖された空間とかどこにいようと追ってくるヤバイやつ。人間を極限に追いやってくる要素は大事だ。
それがもし家族だったら?そんな映画である。
監督の短編作品もそんな話だった。家族である、家族でいるということは見えない檻の中で暮らさざるを得ないということだ。息子は結婚して家を出ても実父を犯す。その悲鳴が聞こえているはずなのに母はひたすらテレビの音量を上げて聞こえないフリをする。地獄である。
ヘレディタリーですか?地獄街道まっしぐらです。どうしようもないです。
ピーターが「地獄の王」の器になることは最初から仕組まれていたことで、そこに「おばあちゃんがヤバげだから息子は近づけんとこ」というお母さんの意思など通用しないのである。悲しいなぁ…
振り返ってみるとなにもかも伏線であった。初っ端にあの小屋が映るのも伏線だし、母の葬式なのに娘も知らない人が多いとか、「秘密の多い人」というのも伏線だ。チャーリーちゃんが鳩の首でステキにハンドメイドしてたのもそういうことだ…。よくよく思いだすとお母さんがあのグループセラピーに初めて行ったのはおばあちゃんに行かされたからだから、つまりラストの全裸集団はその教団の人たちで多分グループセラピーの…あわわ(あわわではない)。
話の運び方も素晴らしかったが、劇伴もまたヤバかった。キリキリ延々と責め立ててくるストリングスが不快、じわじわ存在感を高めてくる環境音も不快。いきなりドン!と来てビックリさせる要素はあんまりなかった(あんまり)が、じわじわストレス値を高めてくる感じがぴったりであった。褒めたくない…褒めたい…
話がとっ散らかってきた。ラストの話をしよう。なんやかんやで屋根裏に追い詰められた。お母ちゃんが首をギコギコやってる。追っ手も来てる。そりゃあ夢だって思いたくなりますわな。最後のガラスをぶち破って花壇に落ちる。
そんなんで逃げられたら良かったなぁ!!!!!
どうしようもないのだ。おばあちゃんの孫、しかも男の体に生まれてしまったのだ。ピーターは器になるしかない。導かれるように小屋まで歩いていく。ここから多分観客は物事をピーターの視点からすらも見られなくなっている。赤熱ヒーターの光で小屋の窓が赤いのかと思うじゃん。これね、全部儀式用のろうそく。正直天才すぎる。儀式の準備は整った。ここまでに落ちた首は供物だ。ピーターは王冠を被る。パイモン万歳!
ここでカメラがガンと引く。マジで天才だと思う。この映画ってどうやって始まったっけ…ミニチュアにズームインしましたよね…そういうことです…そういう…
所謂神視点で見ていた訳ですよ私たち。ピーターに起こったことは全部仕組まれていた悲劇で、そのレールに乗せられた様子を今まで見ていたんだという気持ちになります。地獄〜〜〜!!
って感じの映画でした。地獄と不快と嫌のハッピー(ハッピーではない)セット。血がドーン!怖い顔がバーン!痛そうな描写ァ!みたいなホラー映画とはまた一線を画した、確実に精神を蝕んでくる感じのホラー。ゴリラ多分おばあちゃんになって「今まで観た中で一番ヤバかった映画なんでしたか?」って聞かれたら、どれだけ歯が抜けてても「ヘレディタリー」って言うよ。派手なホラー映画はめちゃめちゃ興奮するし楽しいんだけど、これはどんどんガン萎えしながらもスクリーンから目を離せない感じの映画でした。アリアスター監督、ありがとうございました。あなたよくもこんなものを…
書いてたらもう一回見たくなってきた。二度と見たくないが…いや見たいな…見るか…
なんか間違いがあったら加筆修正します。